「板長を呼べ、謝らせろ!」と激怒するクレーマーには…温泉旅館の女将が明かす“ヤバい客の撃退法”
今年、コロナ禍が始まってから3度目のGWを迎えた日本。苦境が続く宿泊業の中で、全国の温泉旅館は感染対策を施しながら、新たな「おもてなし」を模索している。その最前線に立ち続けているのが、各地の“女将”たちだ。
長年温泉旅館を取材し、『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)などの著書でも知られる山崎まゆみ氏が、そんな女将たちの“とっておきの仕事術”を紹介する。
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第一条 お客様への謝罪は40分話して見極める
温泉旅館はお客の滞在時間も長く、寝食も提供する特別な場所である。そこで日々心をこめた“おもてなし”を実践する女将たち。お客からの理不尽なクレームを受けながらも、お客のために奔走する女将は、いわばサービスの練達者だ。
本連載では、そんな女将たちの“仕事術”を覗きつつ、私たちの日常生活にも活用できそうな“技”をご紹介していく。
川端康成が『雪国』を執筆した温泉旅館
連載第1回にご登場いただくのは、新潟県越後湯沢温泉「雪国の宿 高半」の女将、高橋はるみさん。新潟女将の会の会長を3期務め、女将歴は30年を超える。川端康成が小説『雪国』を執筆した「かすみの間」がいまも残る高半は、映画『雪国』の撮影で主演の岸恵子や池部良、八千草薫らも滞在した。はるみ女将は、池部良から赤と黒のタータンチェックのコートを貰った逸話も持つ。地元の塩沢紬を上品に着こなす、たおやかな姿が印象的な女将だが、これまで数多の修羅場も踏んできた。個性ある女将を束ねる人望や人情味溢れる人柄は、その圧倒的な経験値がもたらすものだろう。
かつて温泉旅館の女将は、「お客様は神様です」を地で行っていた。では、その女将の辛抱の限界点とは、一体どこだろうか――。
「板長を呼べ、謝らせろ」と激怒する男性
「部屋付きの仲居が、お客様にマグロの切り身を夕食でお出ししたら、『なんでこんなものをお客に出すんだ!』とお叱りを受け、真っ青になって私の元にやって来たことがあります」
女将がかけつけると、部屋には40歳前後の夫婦と小さな子供2人の4人家族がいた。激怒していたのはその父親だった。
「よくよくお話を聞きますと、『マグロの柵の端っこはお客に出すべきではない』とおっしゃるんです。確かにその切り身は端っこではありましたが、決して小さな切り身ではなく、美味しく食べられるところとして板長が出したものです。そう説明しても、『板長を呼べ、謝らせろ』とお怒りは収まりません。でも、私としては謝る理由がないのです。『俺は鮮魚関係の仕事をしている。納得がいかない』とお客様の言い分はエスカレートするばかりでしたので、『申し訳ありませんが、お泊めできません』と、そのご家族には帰って頂きました。家長としての面子でしょうか、奥様やお子さんたちの手前、引くに引けなかったんでしょうが……」
理不尽なクレーム、女将はどう対処する?
女将と言えば、お客へのクレームに平身低頭で謝り続けるイメージがある。はるみ女将のように、毅然とした態度を見せるのは珍しい。
その判断基準はなんだろう?
「時間です。私の経験から40分程話して見極めます。怒りを収めてくださるお客様は、そもそも40分までかからずに解決の兆しが見えてくるものなのです。
それが30分だと短くて、1時間を超えると、かえって終わらなくなるんです。もちろん謝る時はしっかり謝りますが、あまりにも違うだろうという時は、『お引き取り下さい』とお帰り頂きます。というのも理不尽なクレームによって、従業員が自信をなくしてしまうんです。スタッフの士気を保つのも、女将としての大切な仕事ですから」
そしてこの40分で、もうひとつ見極める要素があるのだそう。
「料金を踏み倒したい」というお客様には……
「私はお客様に、必ず『どうしたらよろしいですか?』とお尋ねしますが、何も言わない方が多いです。その場合はおおむね『支払いたくない』というお客様の本心が見え隠れします。料金を踏み倒したいという目的でクレームをつけるお客様には、どんなに話しても無駄ですから。その見極めのための40分です。
例えば、芸者を呼んで遊んでおいて、芸者が帰ってから『あんなのにお金は払わない』と言い出すお客様なんて、最たるものです」
お客さんは大切であるが、神様ばかりではないということだ。
撮影=山崎まゆみ
雪国の宿 高半
新潟県南魚沼郡湯沢町湯沢923
TEL:025-784-3333
単純硫黄温泉、アルカリpH9.6
スタッフ数20人 部屋数33室
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