「入店お断り」ラーメン1杯を2人でシェア ルール違反なぜ起きる?

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「入店お断り」ラーメン1杯を2人でシェア ルール違反なぜ起きる?

 食べない方の入店お断り――。あるラーメン店がSNSに投稿した訴えが注目を集めている。2人連れの客が来店し、うち1人は注文せず、1杯のラーメンシェアしたという。安価が売りの店側は「商売にならない」と音を上げ、「食べない方は外のベンチでお待ち頂きます」と訴えた。こうした客側の行動背景や、飲食店が被る損害について、グルメジャーナリストの東龍さんに話を聞いた。

【居座り・作り直し……飲食店のカスハラ被害】

 「また起きてしまったかという印象です」

 長年、飲食業界を見つめてきた東龍さんは話す。「飲食店の経営や、店の空間価値などといった視点が、まだまだ利用者に伝わっていないのではないかと感じました」

 窮状を訴えたのは、茨城県水戸市ラーメン店。1杯400円~と安価で提供しており、「シェアして客単価200円では商売にならないため、当店はシェアお断りします」とSNSに書き込んだ。子ども連れや、身体的理由など特別な事情がある場合はその限りではないという。

●「注文せず」で店が被る損失

 注文を頼まない利用者が訪れることで、店側はどのような損失を被るのか。東龍さんに詳しく聞いた。

――「注文せずシェア」という問題はよくあるのでしょうか

東龍: そうですね。おそらく利用者は悪気がなく、出費を最小限に抑えて、なるべくいいものを得ようという考えがあったのかもしれません。メディアでもコストパフォーマンス費用対効果)という言葉が盛んに取り上げられますが、2人連れの利用者も当たり前のようにシェアされたのかもしれません。

――利用者が注文しないことで店側はどのような損失を被るのでしょうか

東龍: 最も分かりやすいのは、やはり「機会損失」ですね。本来であれば一席1人分の売り上げがあるのが、2人座って1人分の売り上げしかない。その席を占有されているわけですよね。明らかにその時間は機会損失になります。また、テーブルを汚したり、割りばしなど消耗品を使ったりするのは、明らかに店側の不利益になります。

 もう1つ、被害を受けるのは店側だけでなく、混んでいて店外で待っている人がいるとすれば、その人にも不利益を与えていることになります。

――確かに機会損失など利用者側は普段、なかなか思いが及びません

東龍: 飲食店は当たり前ですが、慈善事業ではありませんよね。一席ごとに客単価が決まっています。夏であれば、クーラーをきかせる。冬であれば、乾燥しないよう加湿器を設置したり、暖房を入れたりする。机をきれいに拭(ふ)いたり、いすを設置したりするのも、全てお金がかかっていますよね。

 例えば、自分の快適な家に、急に知らない人がやってきてソファに座り、30分間テレビを見るなんて、普通は許さないですよね。来店して注文しないというのは、それと同じことになります。

――SNSでは店の対応を支持するユーザーの声が多数見られました。注文しないのは「マナー違反」と考える人が多い印象を受けました

東龍: 利用者からすると「マナー違反」となりますが、飲食店の側から見れば「ルール違反」となります。飲食店は基本的には「お客さま商売」になり、店側からルール違反ですよ、と声を上げにくい側面があります。しかし今回は、利用者側にも「マナー違反」と感じる方が多くいらっしゃり、訴えも伝わりやすかったのではないでしょうか。

メディアが強化した「コスパ重視」の風潮

――店側と利用者側の意識のギャップを起こさないためにはどんな対策が必要でしょうか

東龍: 飲食店側からすれば、一人一品は本来、当たり前のことですが、日本の飲食店では海外に比べて、明言化されていないところが多い印象を受けます。「一人一品必ず注文してください」「召し上がらない方は外で待っていただきます」とはっきりルールを設けて提示することは大事かなと思います。

 やはり時代も変わってきています。都内だけでも10万店以上の飲食店があり、外食産業は成熟し、情報もインターネット上にあふれ、いろいろな人が飲食店を利用しています。昔のように、知っている人だけが来店する、という時代ではないので、ルールを明確にし、ポリシーをしっかり伝えることが大切です。

――先ほどコストパフォーマンスのお話がありました。コスパ重視が盛んに叫ばれるのはなぜだと考えますか

東龍: よくいわれるように、日本人全体の所得が上がらず、そうすると、どんどん引き締めムードになります。自身もメディアの人間ですが、やはり、メディアの論調も「これは安い」「お得」といった具合に、なるべく出費を抑える方向の記事が増え、そうした雰囲気がどんどん強化されます。反対に、バブル景気のときは「もっと豪快に遊ぼう」という論調の記事が多く見られました。

●一億総グルメ化の時代

――飲食店側が困る利用者の行動は、ほかにどのような例がありますか

東龍: 一番多いのは、料理を食べ終えてからずっと席に居座ることですね。勉強や仕事もかねて提供するカフェなどであれば問題ありませんが、通常のレストランで長時間居座れば、飲食店にとっては機会損失になります。

――利用者が店側に過度な要求を突きつけるカスタマーハラスメントもよく耳にします

東龍: よくも悪くも、最近感じるのは、日本人の多くの方が、すごく「グルメ化」されているということです。私も仕事柄、いろいろなお店に行くのですが、従業員やシェフに向かって「ここがだめだ」と声を上げる利用者をお見かけします。

 昔であれば、利用者がシェフと関係性を築いてから店について意見することが多かったと思いますが、近年はグルメサイトなどが多数あり、情報量は昔よりはるかに多く、気軽に手に入ります。そういった事情もカスタマーハラスメントなどが増える背景にあるのではないでしょうか。

●「和牛とは何か」答えられない日本人

――日本と海外の飲食店を比べて見えてくる違いはありますか

東龍: 海外ではレストランなどではルールを明言化しているところが多いです。また海外の方が、レストランは特別な空間という意識が高く、食の知識を学ばれている人も多い印象を受けます。欧米などには、チップの文化がありますよね。チップをいくら払うかという観点から、利用者が飲食店のサービスや、空間の価値、従業員の立ち居振る舞いなどに対して、注意を払うという意識が高いかもしれません。日本の場合は、飲食店が設定するサービス料が上乗せされるので、そこまで意識をする人が少ないのかもしれません。

――飲食店と利用者の双方が気持ちよく食事を楽しめるようにするためには、どのような取り組みが必要になるのでしょうか

東龍: 飲食店側としては、ルールの明言化が必要ですね。そして、利用者の意識という観点からは、やはり国が「食育」に力を入れることは大切だと考えます。例えば、日本が世界に売り出す「和牛」。海外からおいしいと絶賛されるのに、「ところで和牛とは何ですか」と聞かれると、正確に答えられる日本人はあまりいません。こうした食育の不足が、飲食店でのルール違反などにつながる、1つの原因なのではないかと感じています。

「食べない方の入店お断り」と発信したラーメン店の訴えが話題に

(出典 news.nicovideo.jp)

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