“絶滅危惧種”と呼ばれた「ドムドムバーガー」は、なぜ蘇ったのか ?

“絶滅危惧種”と呼ばれた「ドムドムバーガー」は、なぜ蘇ったのか ?

“絶滅危惧種”と呼ばれた「ドムドムバーガー」は、なぜ蘇ったのか ?

蘇る》》》》ドムドムバーガー

 このまま消えてしまうのかと心配されていたブランドが「不死鳥」のように蘇った、と注目を集めている。

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 日本最古のハンバーガーチェーンドムドムバーガー」のことだ。

 1970年マクドナルド上陸の1年前、ダイエー創業者の中内功氏によって設立されたドムドムバーガーは、90年代の最盛期は全国400店舗以上にまで拡大した。しかし、ダイエーの経営危機の影響をモロに受けて店舗は続々と閉店、競合チェーンの影響などもあって業績も低迷。長年赤字が続いていたことから、いつしか「バーガー界の絶滅危惧種」なんて呼ばれることになってしまう。

 「復活」の兆しが見えたのは2017年アミューズメント施設運営会社の再生などの実績を持つレンブランホールディングスが買収し、「ドムドムフードサービス」を設立して再生に乗り出したところ、ほどなくして業績が上向き、2年前からは黒字に回復したのである。

 その勢いはコロナ禍でも衰えず、「浅草花やしき」「市原ぞうの国」など観光客が激減した商業施設に出店して、行列をつくるという離れ業をやってのけて大きな話題となった。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いなのは、マスコミの取材に応じた取締役・営業部長の以下の言葉からもうかがえよう。

 「業績はちょっとびっくりするくらい好調ですね」(日テレNEWS7月6日

 そんなドムドムは現在27店舗だ。マクドナルドは6月末時点で2951店舗。モスバーガーも6月末で1253店舗だ。それほど店舗が多くないイメージバーガーキングでさえ、全国123店舗(2021年5月27日時点)である。店舗数では沖縄で展開するA&Wと同じくらいで、全国チェーンとしてはハンバーガーチェーンとしてはケタ違いに店舗数が少ない部類だ。

 しかし、「存在感」は決して大手にも負けていない。例えば、「ねとらぼ」が昨年11月に「一番おいしいと思うハンバーガーチェーン店」をアンケートしたところ、モスバーガーバーガーキングに続いてドムドムはなんと3位。今年4月に実施した「あなたの好きなハンバーガーチェーン店はどれ?」でも5位に入っている。

インパクト大の商品で話題をかっさらう

 この原動力になっているのが、マックやモスという全国チェーンではなかなかお目にかからない「攻めたハンバーガー」だ。

 ソフトシェルクラブを一匹まるまる挟んだ「丸ごと!!カニバーガー」や、巨大なカレイフライを挟んだ「丸ごと!!カレイバーガー」を発売すると、SNSでも「映える」と大きな話題になった。現在も、台湾屋台で人気の「ジーパイ」という巨大な鶏の唐揚げを挟んだ「ジーパイバーガー」や、「ゴーヤーチャンプルバーガー」という独特な商品で勝負している。

 このように「挟めるものはなんでも挟んでしまおう」という攻めた戦略というか「遊び心」が、ドムドム黄金時代を知らないような若い世代の心をつかんで、熱烈な「ファン」を増やしているのだ。

 それがうかがえるのが、ロゴマークの象である「どむぞうくん」をあしらったオフィシャルグッズの売れ行きの好調さだ。昨年夏、全国のロフト58店舗でドムドムグッズポップアップストアを開催したところ、大盛況で中にはあっという間に売り切れた商品もあった。この人気を受けて、今年5月にはドムドム公式の「FANBOOK」が宝島社から発売された。

 このような話を聞くと、「うらやましい! ウチもぜひやり方を学びたい」と感じる外食チェーンの方も多いことだろうが、実はドムドムの「再生」が最も参考になるであろう人々は別にいる。

 それは「老舗企業」だ。

 ご存じのように今、日本全国で老舗企業の倒産が相次いでいる。例えば、大阪土産「栗おこし」で知られる「戎大黒本舗」が今月20日に事業停止をして、自己破産の準備に入った。1927年創業の老舗だ。

 また、今月21日には、1850年創業で群馬県内最古参とされるこんにゃく製造業者「丸大オヲツヤ商店」が破産手続き開始決定を受けていたというニュースがあった。

●守ったまま潰れていく

 こういう老舗倒産のニュースを聞くと、「コロナが悪い」「新自由主義が悪い」「後継者不足が悪い」「消費しない若者が悪い」という感じで、とにかく「外的要因」が問題であって、老舗企業側はなんの落ち度もない「被害者」という感じで語られることが多い。

 もちろん、広い世の中なのでそういう悲劇もある。しかし、倒産する老舗企業の直近のビジネスを見てみるとそういうケースではない倒産のほうが圧倒的に多い。

 『老舗が続々廃業! 「和菓子店の危機」がここにきて深刻なワケ』の中でも詳しく述べさせていただいが、倒産する老舗企業の多くは、時代の流れに合わせてビジネスモデルを変えることができなかったパターンが多いのだ。

 言い換えれば、「これまでのやり方を守ったまま潰れていくパターン」である。

 老舗というのは歴史が長くなればなるほど、昔からの常連客、昔からの取引先、昔からのビジネスモデルへの「執着」を強めてしまう傾向がある。しかし、日本は急速に人口減少しているので、年を追うごとに常連客も取引先も減っていく。市場環境も大きく変わっているので、50年前に生まれたビジネスモデルもどんどん通用しなくなってしまう。つまり、「過去」への強すぎる執着が、老舗を自滅に追い込んでいるのだ。

 そうならないための秘けつが実はドムドムバーガーにある。なぜかというと、V字回復をする前まで、このチェーンも「過去」への執着がやめられない、典型的な「老舗企業」だったからだ。

 18年から社長となって黒字化に成功した藤崎忍社長は、本格的に再生を手がけるまでのドムドムについてこう述べている。

 『ドムドムの店舗はほとんど街のスーパーの中に入っていて、売り上げ規模も小さく、常連の限られたお客さんに守っていただいている状態でした』

●再生できた最大の理由

 このあたりは、「街の老舗和菓子屋さん」や「街の老舗喫茶店」などと地域密着型老舗企業が直面する負のスパイラルとまったく同じである。

 年配の常連客が足繁く通ってくれることで商売が成立するので、とにかく常連客を大事にする。もちろん、それは素晴らしいことなのだが、常連客が好むのは「これまで通りの商品」「これまで通りのサービス」なので、新しいチャレンジをしなくなって結果、新しい客が入ってこないのだ。

 一方、常連客も高齢化でどんどん少なくなっていくので、じわじわと売り上げは落ちていく。しかし、苦しくなればなるほど「まだ残っている常連客を大切にしなくては」と新しいことができなくなってしまう。そんな消耗戦を続けていくうちに、コロナ禍や後継者が背中を押して、廃業・閉店を決断するというパターンが非常に多いのである。

 ドムドムバーガーが再生できた最大の理由は、この負のスパイラルを「老舗ならではの現状維持圧力」に屈することなく、藤崎社長が見事に断ち切ったことが大きい。例えば、ドムドム復活の原動力になった「丸ごと!!カニバーガー」は、藤崎社長が押し切らなければ世に出ることはなかった。

 『商品開発部が持ってきたのですが、取締役会では「それはないだろう」と反対意見が多かったのです。でも実際に食べて見たら美味しかったのでやってみようと思いました』(ニッポン放送NEWS ONLINE 22年1月24日

 新客獲得のマーケティングも兼ねて、ドムドムを人気声優イベントに参加させることを藤崎社長が検討したときも『看板や出店料などの初期投資が大きいし、準備したハンバーガーが売れる確証もなかったので、役員会では反対意見ばかり』(前出・ダイヤモンドオンライン)だったという。

●次々にコラボ

 また、藤崎社長はドムドムアパレルコラボも実現している。ロゴを貸すだけなので金銭的なリスクはないのに、ここでも「保守的な反対意見」がでた。

 『社内では「なんでバーガー屋が洋服をやるのか」「ロゴの管理が難しい」「ロゴの形や色は順守しなければならない」と反対されました。でも「何色でもいいじゃない」って思いました(笑)』(前出・ダイヤモンドオンライン

 断っておくが、「慎重な意見が悪い」と言っているわけではない。老舗が生き残っていくには、時代の変化に対応をすることなので、時にこれまでの常識、これまでのやり方を全否定するような柔軟な発想が必要だと言いたいだけだ。

 藤崎社長は39歳まで主婦で、その後に「SHIBUYA109」内のショップ店長、居酒屋経営などをしてきただけあって「これまでのドムドム」に縛られることなく、「これをやったほうがお客さんが喜んでくれそう」という自由な発想で施策を決めている。筆者がこれまで取材などで見てきた、「成長を続ける老舗企業」の経営者の多くは、藤崎社長のような人たちなのだ。

 成長を続けている老舗企業のほとんどは「守り」に入っていない。伝統や歴史は大事にしつつ、自由な発想で「攻め」を続ける。「革新」を続けている老舗だけが生き残っているのだ。

 当たり前だが、老舗も創業したときはもともと「ベンチャー」だった。新しいことを始めて周囲を驚かせて、誰もやっていない領域を切り開いていった。しかし、地域に受け入れられて定着していくうちに、どんどん「常連客を守る」「伝統を守る」「歴史を守る」という感じで、保守的になっていってしまう。

●チャレンジを避けてきた

 規模は大きくないのに、大企業病のように何も新しいことにチャレンジできなくなってしまう。かつてのドムドムバーガーもそうだった。規模は大きくないのに、マクドナルドモスバーガーとそれほど変わらない品ぞろえで同じような戦い方をしていた。そして、常連客を守るために新しいチャレンジを避けてきた。

 そういう老舗の保守的なところを、藤崎社長がその自由な発想でぶっ壊した、というのがドムドム再生の最大のポイントではないか、と個人的には思っている。

 ドムドムバーガーの復活は「小さな老舗こそ、常識にとらわれない攻めた戦い方ができる」という事実を、これ以上ないほど分かりやすく証明した。巨大チェーンやグローバルブランド企業では、何か革新的なことを始めるにしても社内稟議と調整に莫大な時間がかかってしまう。「ウチらしくない」「失敗したら誰が責任を取るんだ」という反対意見も多い。

 しかし、ドムドムは藤崎社長のリーダーシップですぐに実行に移すことができる。27店舗しかないので、ハンバーガーチェーンの常識に反した施策も打ちやすい。まさしく、「持たざる者」にしかできない理想的な戦い方だ。

 苦しい戦いを強いられている全国の老舗企業にとって、ドムドム復活から学べるものは多いのではないか。

(窪田順生)

「絶滅危惧種」と呼ばれていたドムドムが復活

(出典 news.nicovideo.jp)

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