誰かと結婚して、子供を持つなんて大変すぎる…独身の日本人の男女が急増している本当の原因

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誰かと結婚して、子供を持つなんて大変すぎる…独身の日本人の男女が急増している本当の原因

国勢調査によれば、男性の生涯未婚率(2020年・速報値)は25.7%、女性は16.4%と過去最高となった。なぜ日本人は結婚しなくなったのか。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のサビーネ・フリューシュトゥック教授は、「結婚することや子供を持つことの社会的意味合いが変化した。いまや人々を出産や育児へと駆り立てる社会的・世代的必然性はなくなった」という――。(第1回/全2回)(取材・文=NY在住ジャーナリスト・肥田美佐子)

■欧米の男性と日本人男性の違い

——教授はオーストリア出身ですが、著書の執筆や数多くの自衛隊員への聴き取りなど、日本人男性の特質やアイデンティティーについて研究を重ねてきました。欧米の男性と比較し、日本人男性にはどのような特徴があるのでしょう? 教授の分析を教えてください。

この問題に答えるに当たって、まず、考慮しなければならないのは世代です。中高年世代の多くは「サラリーマン」志向を強く持っていましたが、若い世代は、そうした志向とは相いれない考え方を持っているように見えます。

というのも、若い世代は、サラリーマン型のライフスタイルに魅力を感じなくなっているからです。また、実際のところ、多くの日本人男性には、もはやサラリーマンのような安定したキャリアを望めないという現実も関係しています。

その結果、若い男性の間で、家庭生活や父親になることを重視する傾向が以前より一般的になりました。あるいは、逆に、子供を望まない傾向も目立つようになりました。また、多くの男性が、異性愛以外の価値観オープンに受け入れるようになったように見えます。

つまり、日本人男性のライフスタイルビジョンが大きく変わり、多様化したのです。

ひるがえって米国人男性の特徴は、米国文化と言い換えてもいいですが、個人主義志向が非常に強い点に加え、言葉には出さずとも、軍隊や戦争という価値観の重視がはっきりと見て取れる点です。こうした点が、日本、そして日本人男性とは大きく異なります。

もちろん、ウクライナ危機を契機に、日本でも、アジアや台湾の情勢が以前より争点になっていることは承知しています。

■日本人男性の価値観は欧州の男性と似ている

とはいえ、こと個人主義や軍隊や戦争に対する考え方となると、日本人男性は米国の男性より、欧州の男性にはるかに似ています。日本で見られる平和主義や反軍国主義も、欧州の男性が非常に慣れ親しんでいるものです。

一方、ウクライナ危機が引き金となって、ドイツの「緑の党」のような、伝統的に反軍国主義の傾向が強い政党や、反軍国主義の国々の中から大規模な軍事化を唱える声が出てきたのは、私をはじめ、欧州の多くの人々を困惑させています。そうした意味では、軍隊や戦争をめぐる世論の多くは流動的なものとも言えますが、日本人男性は、欧州の男性に似ているところがあります。

■男性像の押し付けは解消されたが、男女平等が進まない日本

——「これこそが日本人男性の特徴だ」というものはありますか。

学者という立場で、固有の特徴を「集権化」するのは非常に困難です。

ただ、軍国主義が、「男であること」を示す旧時代の象徴だったとすれば、通常、その古いモデルがもはや支持されなくなった国では、男女の平等という、ジェンダーギャップの解消が進みやすいものですが、日本ではそうなっていません。それが興味深い点ですね。

一方で、多くの国々を旅し、いろいろな国を知れば知るほど、どの国にも、似たようなタイプの男性や人々がいることがわかりました。

人は、往々にして各国の文化の特徴と男性像を結びつけようとしますが、例えば、日本とドイツの男性の違いに注目するよりも、世界の男性像をグローバルに眺めることのほうが、はるかに重要です。

■家庭を持つことは社会的な期待を伴う

——6月14日、日本政府が閣議決定した2022年版の男女共同参画白書には、結婚などに関する内閣府の調査結果が含まれていました。それによると、独身の20代男性のうち、誰ともデートをしたことがない人は約4割に上っています。さらなる少子化などへの懸念も指摘される一方で、心配は要らないという反論も聞こえてきます。どう思いますか。

まず、デートしたことがないという男性の割合が、デート経験がない女性の割合を大きく上回っているのを見て、「女性は誰とデートしているのだろう?」という疑問が湧きました。同年代の男性ではなく、年上の男性とデートしているのでしょうか。

次に、「デート」という定義の解釈をめぐり、男女で食い違いがあるのではないかとも感じました。男性が考えるデートとは、誰かから誘われることを意味するのか、それとも自分からデートに誘うことを意味するのか、と。

一方、女性はどうでしょう? 彼女らが「誰かとデートしている」と言うとき、男性と同じ意味で使っているのか、それとも、相手との間で「デート」という言葉が使われなくても、女性はそれを「デート」だと考えるのか、と。

また、この調査を実施した行政機関は、明らかに異性愛者のカップルのみに関心があるとも感じました。

次に他国との比較ですが、こうした調査で未婚・非婚などの理由を尋ねると、恋愛や結婚、子供を持つことで生じる責任や重荷を背負いたくない、自由な身でいたいという答えが他国でも目立つものです。

つまり、内閣府の調査を額面どおりに受け取れば、男性も女性と同じように結婚や子供をもうけることに二の足を踏み、少なくとも正式なデートや恋愛関係の構築には乗り気でない、ということが明白になったようにも見えます。家庭を持つことには、社会的な期待や経済的負担が伴うからです。

■子供をもうけないのは自己中心的なのか

一方、日本政府が初めてジェンダーやジェンダー論に言及し、人口減に注意を払うようになってから30年余りの歳月が流れました。

日本は、少子化問題で世界の国々の先を行っていますが、中国や台湾など、東アジアの他の国々や地域に加え、イタリアドイツなどの欧州でも、少子化傾向が見られます。

もちろん、未婚・非婚は、デートや恋愛をしたり性的関係を結んだりすることとは別ですが、米国でも、生涯独身を貫く人の割合は増えています。

ただ、米国で、そこまで少子化が進んでいない背景には、若い移民がたくさんいるという事情があります。例えば、米国には中南米からやって来た人々が多いですが、中南米では、今も文化的に子供を持つことが尊重されます。

しかし、ひとたび白人人口に目を向けると、米国も、出生率の点で日本や欧州に似ています。米国の中流層も同様です。

こうしたことを考えると、日本の若者が社会的・経済的プレッシャーを嫌うように、世界の若者の間でも、誰かと恒久的な関係を結んで子供をもうけることへの関心が薄れているのかもしれません。

保守的な日本政府関係者の中には、「今の若者は自己中心的だ」といった注釈を付ける人がいるかもしれませんが、要は社会的な期待と経済的負担の問題なのです。

■子供をもうけることが社会的地位を押し上げる時代は終わった

私たちは、(資本主義の最盛期が過去のものとなった)「後期(晩期)資本主義」に身を置いていますが、その中でも、子供を持つことがもはや社会的ステータスの向上につながらない時代に突入したのだと思います。

というのも、子供を持つと、トップ校に入れなければとか、才能や能力のある子供に育てなければとか、さまざまな形で、大きなプレッシャーが親にのしかかるからです。

そうした親としての役割が親の社会的ステータスを高めてくれるとも言えますが、今やそれは、人々を出産や育児へと駆り立てる社会的・世代的必然性ではなくなったのです。

■「ひたすら子供と過ごす毎日は世界が一気に縮小した感じ」

——日本の少子化は、移民の少なさに原因があるのでしょうか。

移民が人口増を後押しするのは確かですが、もちろん、それが唯一の要因ではありません。

特に欧米と比べると、日本の母親は、より大きなプレッシャーにさらされています。国を問わず、女性は、母親に課せられる特定の生き方に対してプレッシャーを感じるものですが、日本では、今もそれが顕著です。

私の個人的な例をお話ししましょう。2005年カリフォルニアで子供を産みましたが、出産後3カ月半で復職しました。教授としての知的活動が制限され、家で、ひたすら子供と過ごす毎日に息が詰まったからです。自分の世界が一気に縮小したように感じたため、仕事に戻る必要があったのです。

ある時、母国オーストリアの従姉(いとこ)に復職を伝えたところ、返ってきたのは次のような言葉でした。「まるまる1年休めないなんて、かわいそう」と。

母親が何を望み、社会が母親に何を求めるか、母親にどのような可能性が保障されているかは、社会によって違います

■日本人男性は「自律性」を手に入れた

——日本では男性間格差が広がり、非正規労働者など、一部の男性は結婚や子供を持つこともあきらめざるを得なくなっています。一方、日本型雇用制度の下で、今も雇用の保障を享受するエリート男性は多いです。日本経済の「失われた20年」の下で拡大した「二極化」は、日本人男性の特質やアイデンティティーにどのような影響を与えたと思いますか。

とても難しい質問ですね。日本では、高給を稼ぐエリート男性と、さまざまな雇用形態で働く、その他の男性が共生しています。

つまり、少なくとも男性にとっては、労働市場に多くの「階層」が生まれたという意味で、日本の労働市場も米国の労働市場に類似してきていると言えます。

日本の男性の中には、より自由な、自分が望む生き方と引き換えに、低い給与や安定した収入の欠如と折り合いをつけ、結婚しない人生を選ぶ人もいるでしょう。旧世代の男性と違い、家族を扶養するだけの経済力を提供できないからです。

これは、経済的な安定という点から見ると、問題です。しかし、見方を変えると、日本の男性が「自律性」を手に入れたとも言えます。20年前に考えられていた、いわゆる「男らしさ」にはもはや当てはまらない、さまざまなタイプの男性が出てきたのです。

■「サラリーマンになりたい」時代から、自由に生きる時代へ

1980年代後半、まだ大学生だった頃に初めて渡日し、レストランで働く機会がありました。閉店後、その店のシェフダークスーツ着替えて帰宅する光景を目にし、理由を尋ねたときのことです。すると、こんな答えが返ってきました。

「みんなに『サラリーマン』だと思われたいんだ」と。

彼によると、通勤電車の中で他の乗客から最も信用され、尊敬に値する格好が、サラリーマンのように見えるスーツ姿だということでした。「こうしていれば、誰も僕の仕事が何かわからない」と。「終業後、夜遅く電車に乗っても、『同僚と会食したり、お酒を飲んだりしていたのだろう』と思ってもらえる」というのです。

今では、そうした考え方は当時のように一般的ではないと思います。資本主義が保障する「自由」と共存し、「自分が望むような男になる道を選択する」という考え方が、より理解されるようになってきました。

マイナス面があるとすれば、言うまでもなく安定の欠如と、人生の長期的予測を立てることができない点です。そうした生き方を受け入れる男性がいる一方で、「歴史的な、男性の特質や男らしさの喪失」だと考える人もいるでしょう。

さまざまなタイプの男性が増えてきたという意味では、日本の働く男性たちも、米国の働く男性たちに似てきたと言えます。

とはいえ、日本と米国全体を比べると、生活や介護・社会サービス、福祉、ヘルスケアの質など、さまざまな面で、依然として日本が米国をはるかに上回っていると思います。

■ジェンダーの多様性への理解は高まったが、法律が追いついていない

——過去10年余りで、欧米だけでなく、日本でも、性的マイノリティーの人々に対する理解をはじめ、ジェンダーをめぐる世論や社会通念が大きく変わり、多様化しました。「男らしさ」や「女らしさ」という言葉の使用を控えるべきだという声もあります。

日本をはじめ、多くの国々で、性的マイノリティーの人々に対する理解が深まり、以前よりはるかに受け入れられるようになったことは、過去20年における大きなニュースです。

日本では、現役世代の約8割が同性婚を支持し、性的マイノリティーの差別を禁じる法律を制定すべきだと考えているという話も聞きます。その点では、法律が世論に追いついていないと言えるでしょう。

男女をめぐる考え方を見直し、法律や公文書を通してだけでなく、企業レベルでも、ジェンダーに関する多様性を高めることが重要です。菅前政権は昨年、LGBTの差別を禁じるための法制化を(東京オリンピックパラリンピック競技大会開催前に)実現できませんでした。

岸田政権の意向はわかりません。性的マイノリティー問題に関し、日本でも多くの進展がありましたが、私は他の人ほど楽観視はしていません。国家も大企業も、経済など、他の問題を優先しかねないからです。そうなれば、進展が滞ったり、逆戻りしたりする恐れがあります。

■日本では発言権のある地位に就いている女性が少なすぎる

女性に関しても同じことで、日本は依然として大きな問題を抱えています。政府や政界、企業で発言権のある地位に就いている女性の数が「妥当」と言えるレベルに達していないのです。

参議院選挙が迫る中、女性候補者数が増えていることは承知していますが、米バイデン政権やドイツフランスの現政権と比べると、女性議員の数が少なすぎます。

企業も同様です。女性が管理職の4割以上を占める米国に対し、日本は約1割にとどまっています(※)

注:米マッキンゼー・アンド・カンパニー2021年9月27日付報告書によると、米国企業の管理職に占める女性の割合は平均41%。帝国データバンク2021年8月16日付報告書によると、日本企業の管理職に占める女性の割合は平均8.9%。

日本の企業はゴールとしてダイバーシティ(多様性)の推進を宣言するようになりましたが、以前は、コーポレートガバナンスや投資家向けの指針でダイバーシティの推進をうたうレベルにとどめる企業が目立ちました。しかし、それでは効力が弱すぎます。

男女雇用機会均等法(注)の成り立ちを見れば、一目瞭然です。成立当初は(募集や採用、配置、昇進で)男女を平等に処遇する「努力義務」が定められていただけで、企業に説明責任が求められなかったため、なかなか実質的な影響を及ぼすところまでいきませんでした。

注:1985年成立

■「女性は望んでいない」は言い訳にすぎない

企業はもちろん、大学でもそうですが、権力の座にある人々の大半は、外見や発言、行動が自分たちと似ている人材に才能や知性、能力があると考えがちです。そして、それが間接的な女性差別になってしまうのです。

必須の研修やクオータ制導入など、本当の意味でのプレッシャーを与えない限り、権力を持った男性が積極的に女性の採用や登用を考えることは、まずないでしょう。

男性のリーダーは往々にして、「女性は、そうした役割やライフスタイルを望んでいないよ」「能力のある女性が少ないからね」などと口にしがちですが、そうしたことは、すべて「レトリック(巧妙な言葉・言い回し)」にすぎません。

女性には、指導や助言をしてくれる同性のメンターか、女性を子ども扱いしない男性のメンターが必要です。そうでないと、日本企業の状況が大きく変わることはありません。

(後編へ続く)

サビーネ・フリューシュトゥック(Sabine Frühstück)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授
専門は現代日本文化論。日本の自衛隊に短期入隊し、多くの自衛隊員にインタビューするなど、日本人男性観の研究にも注力している。著書に『不安な兵士たち』(原書房)、『日本人の「男らしさ」』(明石書店)、『GenderandSexualityinModernJapan(NewApproachestoAsianHistory)』(仮題『現代日本のジェンダーとセクシュアリティーアジア史への新アプローチ)』未邦訳)などがある。

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肥田 美佐子(ひだ・みさこ
ニューヨーク在住ジャーナリスト
東京都出身。『ニューウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、独立。米経済や大統領選を取材。ジョセフ・E・スティグリッ ツなどのノーベル賞受賞経済学者ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェル、マイケルルイス、ビリオネアIT起業家のトーマス・M・シーベル、「破壊的イノ ベーション」のクレイトン・M・クリステンセン、ジム・オニール元ゴールドマンサックス・アセットマネジメント会長など、欧米識者への取材多数。元『ウォー ル・ストリートジャーナル日本版』コラムニスト。『プレジデントオンライン』『ダイヤモンドオンライン』『フォーブスジャパン』など、経済系媒体を中心に取 材・執筆。『ニューウィーク日本版』オンラインコラムニスト

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Kagehito

(出典 news.nicovideo.jp)

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