“生娘発言”に芸能人が激怒! 吉野家元常務は自社牛丼をまずいと思っていたのか
自社の牛丼まずいと思ってるなら、腹立ちますね!私は、めちゃ美味しいと思います。
文/椎名基樹
◆”生娘発言”はそもそもマーケティング戦略ではない
吉野家の元常務が大学のマーケティング講座で「生娘をシャブ漬け戦略」と表し、「若い女の子が、男に食事をおごってもらい、高級な味を覚える前に牛丼漬けにする」と言う趣旨の発言をして炎上した。
内容の低俗さもさることながら、これのどこが「マーケティング」なのかさっぱりわからない。日常的に使い、周囲が追従の笑いをしていたジョークだったのではないだろうか。昨今の舌禍案件のほとんどが、この裸の王様的構造が原因と思う。
◆自社の牛丼をまずいと思っているのか
私個人としては、この発言で何が腹立たしいと言って、この元常務がどうやら吉野家の牛丼をまずいと思っているらしいところである。
私は吉野家の牛丼が好物で、時々無性に食べたくなる。若い女の子に高級な料理をご馳走する甲斐性もないし、そもそもデートする相手もいないけれど、私だってたまには回らない寿司屋に行くし、年に1度や2度位ならフランス料理のフルコースだって食べる。
それでも、吉野家の牛丼が食べたいのだ。それなのに、舌が肥えた者は吉野家なぞ食べないと、しかもそれを提供している側に言われるなんて、なんだか屈辱的である。
芸能界にも吉牛ファンは多いようだ。松尾貴史は、「牛丼のチェーンとしては他社よりも断トツに美味いと思って45年間応援して来ましたが、極めて残念です」とコメント。
谷原章介は「僕、吉野家ファンなのでがっかりしました。これだけ美味しいものをこの価格で提供しているのに、自分で自分の商品をけなしている」と語った。
2人とも財力はあるだろうし、絶対舌が肥えていると思われる。谷原章介に至っては、まるで王子様のようじゃないか。そういえば、吉牛好きのキン肉マンもキン肉星の王子様だ。「常務」ごときの分際で「王子」を味覚を否定するなんて、不届千万である。
「男に高い飯を奢って貰える」ようになれば、絶対に食べないようなものを売ってるんですかね。まあ、食べたことないから知らないけど。
日本にくるたび、ぜったい吉野家行きたいといってわたしを困らせる炭水化物中毒の肉食アメリカ人男子なら知ってる。— 三浦瑠麗 Lully MIURA (@lullymiura) April 18, 2022
一方、私とは違って吉牛とは無縁の人生を送ってきた人もいる。三浦瑠麗はツイッターで「『男に高い飯を奢って貰える』ようになれば、絶対に食べないようなものを売ってるんですかね。まあ、食べたことないから知らないけど。日本にくるたび、ぜったい吉野家行きたいといってわたしを困らせる炭水化物中毒の肉食アメリカ人男子なら知ってる」と発言。
三浦瑠麗は一体何が言いたいのだ? なぜ自分が吉野家に行ったことのないことをわざわざアピールする必要があるのだろう? 「炭水化物中毒」などと言われると、「糖質=悪」というような、現代的な価値観をことさら強調しているように感じてしまう。有り体に言って、自分の意識の高さをアピールしているように感じられた。
旧態依然として時代に取り残されているのは常務の「頭の中」だけだ。吉野家の牛丼は、時代に関係なく「変わらぬ味」で愛されている。低価格・ハイカロリーの食品に嫌悪感を感じるのは勝手だが、ほっといて欲しい。いまどきの世代間の価値観の齟齬に、牛丼そのものまで巻き込まないでほしい。
夭折した棋士・村山聖を描いた評伝「聖の青春」の中に、私の好きな吉野家のおいしさについて語られたエピソードが出てくる。
5歳の時に腎臓の難病が発覚した村山聖は、29歳で亡くなるまで入退院を繰り返す。大人になって入院した際、聖は父親に吉野家の牛丼を買ってくるように頼む。しかし吉野家が見つけられなかった父親は他の店の牛丼を買ってくる。
せっかく買ってきてくれたにもかかわらず聖は「牛丼は吉野家でなければ意味がないです」と言って食べない。後日父親は吉野家を食べて「なるほどこんなにおいしいものか」と思う。
◆日本人は吉牛食べなきゃもったいない
生涯病気と戦いながら、短い一生を将棋に捧げた村山聖は、どんな場面でも常に、曲げることなく自分自身を突き通した。食べ物にも非常にこだわりを見せたと言う。そんな彼が「吉野家じゃなければ意味がない」と言うと、私は自分の味覚に太鼓判を押されたような気がして、妙に嬉しかったりする。
吉野家の軽薄な元常務はいちどゆっくり吉野家の牛丼を食べてみるべきだ。そして、三浦さんも1度位は食べた方がいいんじゃないなかあ……。だって日本人に生まれて1度も吉牛食べずに死ぬなんて、もったいなくない?
【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina
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